はじめに 破壊の時代を生き残る経営とは

Published with permission of Kazuhiko Toyama, author and Bungeishunsha, publisher

コロナショックがやって来た。新型コロナウィルスによるパンデミック(世界的大流行)で、少なくとも数カ月、場合によっては年単位で世界経済は生産と消費の両方を大幅に抑制せざるをえない情勢である。もちろん我が国の経済も。まさに破壊的な危機が私たちの生命と経済の両方に対して襲いかかっているのだ。ここでシステムとしての経済が不可逆的なダメージを受けてしまうと、私たちの社会は、パンデミックを克服した後に今度は経済的に大きな産業やビジネスモデルが数年で消滅するような破壊的変化も起きる。

イベント的な危機が発生しているときも、産業アーキテクチャーの転換が進行しているときも、いずれにせよ「破壊の時代」を私たちは生きているのである。

本書は、もともと破壊的イノベーションによる産業アーキテクチャーの転換が続く時代に、日本企業がどのように会社の基本的な形、まさに自らのコーポレートアーキテクチャーを転換し、組織能力の抜本的な転換、変容を図るか、について、それを表す言葉としてコーポレートトランスフォーメーション(CX)をキーワードとして書き始めたものである。実は現実のCXを仕掛けるときに、最初の難関は始動である。部分的にデジタルトランスフォーメーションを(DX)を取り入れて業務改革を行うような話ならともかく、産業や事業が消えてしまうような劇的環境変化に対し、持続的に対応できる企業に進化することは、企業の根源的な組織能力の進化、多様化、高度化が求められる。そこに手をつけることは非常に大きなストレスを伴う、時間のかかる改革の始動になる。組織も人間も習慣の生き物である。何か大きなきっかけ、強烈な体験に遭遇しないと、そう言う本質的な改革を始動するのは難しい。

そこにコロナショックが突然襲来した。危機の経営の第一のメルクマールはなんと言っても生き残りである。同時により良く生き残る、すなわち危機が去った後に誰よりも早く反転攻勢に転じ、CXによる持続的成長を連鎖的に敢行できるように生き残ることである。過去、危機の局面をその後の持続的成長につなぐことに成功した企業は、TA(Turn Around)モードをトリガーにCX(Corporate Transformation)を展開した企業である。

そこで、本書の構成を、破壊的危機の時代を生き残る修羅場の経営術を披露する第一部(TA編)と、破壊的イノベーションの時代を生き抜くためのCX経営を提案する第二部(CX編)の二部構成に急きょ書き改め、かつ出版時期も前倒して緊急出版することとした。

本書は私が著者と言う形を取っているが、最強のマネジメントプロフェッショナルファームを代表して、約20年にわたり「破壊的危機」と「破壊的イノベーション」の時代を戦ってきた約200名のプロフェッショナルたちの経験、方法論、ノウハウを凝縮して公開するものである。

危機はチャンスでもある。昭和の後半の30年間、日本の経済と企業は戦後復興から高度成長を走り抜け、国内的にはバブル経済のピーク、国際的にはジャパン・アズ・ナンバーワンへと駆け上がった。

ところが、次の平成の約30年間は、バブル崩壊と日本経済の長期不振、そして売り上げ成長、収益力、時価総額のあらゆる面で、日本企業の存在感が失われた時代となった。

この間、中国など新興国企業の勃興もあったが、同じ先進国である米国や欧州の企業との差も大きく広がっている。

繁栄の30年、停滞の30年と来れば、日本の経済人の一人としては、次はなんとしても再び繁栄の30年としたいところである。

年号が令和に代わり、まさに新たな30年が始まるタイミングで日本はコロナショックに対峙したのである。この苦難を乗り越え、かつ経済危機で色々なものが壊れる中で、それをきっかけとして、新たな会社のかたち、あり方を創造できるか。より柔構造でしなやかで多様性に富み、新陳代謝力の高い組織体、企業体に大変容、トランスフォーメーションできるか。日本企業は再び、試されている。

本書で紹介する経営的エッセンスを活用してもらい、今度こそ、大中小の規模を問わず多くの日本企業がこの危機を乗り越え、かつその後の抜本的な改革と成長機会を掴み取ることを切望している。